2004年8月28日
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「波乗り」
 
(もつお/46歳/カリフォルニア)
 


1ヶ月前のことである。 何を思ったか、この歳になって波乗りを始めた。 
高校2年の娘からは、その歳でサーフィンは逆に体を悪くするから止めとけと、何度も注意された。 というよりは、かなり馬鹿にされているようだった。 
学生時代は体育会スキー部に所属していて、競技スキーヤーを目指す硬派な学生であり、当時巷で流行りだしたサーファーは、サザンの曲を聞いて、サーファーギャルとちゃらちゃらするだけの軟派な奴に見えて、どうも好きになれなかった。

それが28年後にサーフィンにはまってしまった。 何が良いって、やはり海が良い。 何度見ても毎回違う姿で優しく、そして雄々しく包んでくれる海が堪らなくイイって感じだ。 
まだボードには立てないのだけど、波が体の後ろにスーッと現れた瞬間、ボードにパワーが生まれ、ぐんぐんと勢い良く進んでいくあの感覚が堪らない。 いつか必ず立てるようになってやる。

と思っていた矢先、慣れないパドリングのし過ぎで、腰椎を痛めてしまった。 それから坐骨神経痛を患い、立ち続けると足先まで痺れが走り、今ではサーフィンもドクターストップとなり、情けない日々を送っている。 娘のそれ見たことかという眼差しが、とても辛い。

思い出した。 中学2年の時、ギター弾き始めの頃、やっと《禁じられた遊び》が安物ガットギターで弾けるようになったと思ったら、左手を骨折し、数ヶ月ギターが弾けなくなり、そのうちギター熱が冷めてしまった。
脚を病んでいるうちに、サーフィン熱も冷めるのだろうか。 いいや、そうはいかせない。 ギターだってその後練習して下手なりにも少しはかくし芸大会で演奏するぐらいになったではないか。 今更プロになろうというわけじゃない。 自己満足で十分程度のサーファーにはなりたいと思っている。

娘に言ってやった。 人間何かを始めるのに、遅すぎることは絶対無い。 若い人の様に直ぐと言う訳にはいかないが、いつか父さんは必ずボードに立ち、お前に手を振ってやる。
どうだ、名言だろ。 と思っていたら、だって父さんギターだって数が増えるだけで、全然うまくならないし、ゴルフだってしょっちゅうクラブ買ってくるけど、一度も大会で勝ったためしはないし、きっとサーフィンだってボードとウエットスーツが増えるだけで、そのうち行かなくなるんじゃないの?
うーん。 けだし名言。 でもギターもゴルフも自分なりに努力しているし、これでも充分楽しんでいるのだ。 波乗りだって脚が治れば大特訓して、いつかは楽しめる段階まで頑張ってやる。

年取ると人間誰しも新しいことに遠慮するようになってくる。 今までの慣れ親しんだことを行うことは、とても気が楽だしヘマもしない。 でも私としては、何か新しいことに挑戦したいとおもっているし、それが自分なりの戦いとも感じている。


   
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