2011年4月21日
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「孤高の♪弾き語りストを自称しつつ早や四十年」
 
(★(⌒杰⌒) AMA-G'/1957年生/北海道)


アコギとの出会いは異性との本格接触よりずっと早かった。

亜米利加の小僧っ子らが小学校就学前の鼻水垂らしの頃から
オールドGibsonを父方のばあちゃんあたりから誕生日に
プレゼントされ(かのJohn Denverの話)、
アコギを始めたのに比べたら、私のアコギ人生の始まりは
実に正しい田舎町の中学生らしいものだった。

あの頃、アコギは街のレコード屋にぶら下がって売っていた。
貯めた小遣いで手に入れたのは六千円のガットギター。
たぶんトップは杉、サイド&バックはメイプル系統の
明るい色合いの格好いいやつ。

私はそれを抱えて公立中学に行き、
一人っ子で小金持ちの小太りの同級生が持ってきたYAMAHAに
対抗して、よしだたくろう(当時はかな書き)を弾き語りしたものだ。

あれから早くも四十年…。
ふと、世のアコギ弾きおやちの来し方に三通りくらいあり、と思ってみる。

一種類目のおやぢは、
アコギに出会って以来、ずっと弾き続けているおやぢ。
70年代フォークはノスタルジーや懐古趣味などではなく、
ずっと歌い続けている単なるMyフェイばりっとソングだと思っている。
懐かしさから唄うのではなく、今この時の心情を唄っているのだと
主張しているようなアコギおやぢ。

二種類目は、若いときに結構本格的にアコギを弾いていて
世が世ならプロデビューしていたかもしれないほどの実力があったが、
髪を切り就職してからはもっぱら仕事ばかりのわーかふぉりっかー。
それが、仕事も家庭も精力も一段落ついた時期になって
昔とった衣笠よろしく、長く押し入れにしまったおいた
オールドMorrisなどを引っ張り出してきて弾き語りを再開すると
たちまち地元のお祭りでひっぱりだこのライブおやぢになったような人。

三種類目は、まったくアコギにも音楽にも縁のなかった
中年から初老のおやぢが
子供にもカミさんにも会社の部下にも相手にされなくなって
ふと眺めた月曜日の朝刊で初心者用のアコギ6点セットに目をとめ
さっそくNetショップに発注。
届いた教則本やらCDやらと首っ引きでうろ覚えの
70年代フォークを習い始めたが、Fコードでつまづき、指の痛さに辟易し、
お経のような歌声に家族から非難ごうごうの嵐にさいなまれ、
はたしてこれは趣味なのか修業なのか荒行なのか分からなくなりつつ、
せめて使った費用の元は取りたいと弾き語りを継続している。

たしかに私自身は、
中学以来ずっとアコギを手放さず、いまでも弾き語りを趣味としており
五十の手習いでライブ出演を開始し、いまでは年間10〜15回くらいの
ライブで弾き語りをし、20本くらい買い集めた新旧のアコギを9本ばかし
楽器専門リサイクルショップに売り払い、いまも11本の内外のマイナーブランド
アコギを万遍なく愛し、バイト疲れの息子が寝ていようが夜勤明けのカミさんが
仮眠を取っていようがお構いなく自宅で歌を唄い、なけなしの小遣いは
弦やら楽譜やらピックやカポダストやアコギ関連用品に投資し、
日本の将来よりは昨日練習したフィンガーピッキングのことを考え、
アナタが噛んだ小指の痛みよりは弦ダコの指のむけた皮を気にしている…
そんなおやぢなんだが、
前述の「三種類のアコギおやぢたち」の存在を
まちがいなく心強く思っている一人だ。

「富士に月見草は良く似合う」というが、
禿げたりメタボったり、しょぼくれたり加齢臭放ちまくりの
おやぢとアコギの組合せは、果たしてどの程度のしっくり感があるのか。

実際問題、五十だろうがアラ還だろうが、さらにはアラ古希であっても
プロやセミプロで格好いいアコギ弾きおやぢは…いる。

ようするに、
腰の据わり具合、腹のくくり具合、自意識の開き直り具合で
ワシらアコギおやぢは、冨士山に対峙する月見草に成り上がれるのか
公園の砂山の麓でしょぼくれるいじけ虫として落ちぶれるかの
分かれ道にたたずむことになる。

こんな時、
まぁまぁ、そんなに肩ひじ張らないで
もっと気楽にアコギおやぢの道を一緒に歩きましょうよ、と
いう人がかならず横合いからしたり顔で登場してくる。

それもそうだと日本人的事なかれ主義の右脳が妥協しつつ、
アマチュアミュージシャンだからこそ
一生モノの趣味だからこそ、おのが丹田に力をこめて、
おやぢの道楽に向き合うほんがいんでないかぃと
屁理屈で肥大した左脳は、シナプスをビンビン言わせてもいるのです。

アコギおやぢが夢想する理想郷……。

働き者のカミさんたちが暮らしの費えはぜんぶ面倒みてくれて、
男達は毎日海を見ながら酒を呑みつつアコギを弾いている国。
アコギ弾きは男の甲斐性だわよと豊かな胸を叩きつつ、
新しいアコギの購入に寛大な理解を示してくれるカミさんたちのいる国。

アコギの弾き語りを趣味にしているおやぢは原則無税。
かつアコギ保険証を無料で交付し、それさえあれば全国どこでも
無償でアコギのメンテナンスと調整が受けられる国。

全ての街にはかならず一軒、アコギおやぢ専用のライブホールを設置。
飲み放題の食べ放題、もちろん最新音響設備での弾き語り放題。
自治体首長はそうすべしと憲法に明記されている国。

この宇宙のどこかにそんなユートピアがないだろか。
……そんなのあるわきゃないさと悟りつつ、
今日からそして明日まで、アコギのことを考えている、
そんな私です。





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