2012年4月25日
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「My Back Pages」
 
(ぶんた/1959年生/埼玉)


 「フォーク」という言葉を聴くと、高校生の頃のことを思い出す。ギターは既に中学時代にそこそこ弾けるようになっていたけれども、高校でフォークソング同好会に入ったことで私のフォーク熱は一層高まった。旧い木造校舎の空き教室は思う存分ギターをかき鳴らして歌えるライブスペースだったし、文化祭のステージでは自分の姿を心の中でフォークジャンボリーや春一番に重ねていた。将来のことなど何も考えず、ひたすらギターを弾くことに夢中になれたあの頃。それは、思い出深きMy Back Pagesなのである。
 そんな日々も卒業と同時に終わりを告げた。大学に進み、就職し、仕事に追われる中で、いつの間にかギターを手にすることもなくなってしまっていた。ところが、高校を卒業して30年近く経ったある年の夏、かつての同好会仲間から同窓会でもやろうかという話が持ち上がった。ペンションを借りてライブ形式でやろうということになり、ギター持参で出かけたまではよかったが、高校時代と同じつもりで1曲歌ったらたちまち声が嗄れた。仕方なくあと2曲ほどボソボソ歌って、何とかごまかすのがやっとであった。俺も老いたな……、ステージを降りながら心の中でそうつぶやいた。
 ところが、この苦い経験が刺激となって、それ以来時々ギターを手にするようになった。練習場所はもっぱら近所のカラオケ店である。これまでライブハウスや地域のイベントでも何度か歌ったけれども、もうステージの途中で声が嗄れるようなことはなくなった。気取った言い方をすれば、若い頃とはまた違う、歳に合ったフォークとの付き合い方を見つけられたということなのかも知れない。さすがにボブ・ディランのように「I'm younger than that now」と言えるような心境には遠いものの、高校時代のあの日々があったからこそある「今」なのではないかと思うのである。




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