こんな日は (1)
BABU

今日もいつもと変わらない朝の目覚めであった
朝の5時半には掃除を始める我家の奥様は
いつもの通りあちらこちらの窓を開けて掃除機をかけている
おかげで 私が寝ている部屋に 朝の冷たい空気が容赦無しに入り込んでくる
「さむ〜い」 まったくいつも通りの朝だ
朝のニュースは相変わらず嫌なニュースを繰り返している
スーツを着るのはあまり好きではない 忘れ物が無いかポケットを探る
改札を通るときに定期が無いと知った時ほど哀れな事はない

玄関を出ると 雪をかぶった富士山が飛び込んでくる
この景色は何時見ても好きだ
最寄の駅まではバイクで通っている
夜が遅くなると帰りのバスが無くなってしまうからだ
シートの下にしまってある小ぶりなヘルメットとスキー用のグローブをとりだす
遅刻しそうな時にエンジンが掛からない時ほど焦ることは無い
しかし愛車は先月バッテリーを交換したばかりで調子がいい
アクセルを回し まだ車が少ない道を駅へと急ぐ

改札を通る前に新聞を買うか売店の方を眺める
大したスクープもないし節約節約 上りホームで電車を待つ
オヤジ達よ 頼むから我先に空席めがけて乗り込むのは止めてくれ
それにしても下りの電車は羨ましい 
許されるものなら 一度でいいから そっちの電車に乗り込みたい
少しは人生観も変わるのだろうか?
寿司詰めの電車から開放されると 外はすっかり明るくなっている
防寒の為のマフラーも暑苦しい

我社に辿り着く間に 某自動車会社の本社ビルがある
車道からこの会社の駐車場に入るには 人通りの多い歩道を横切らなくてはならない
そのために 通勤時間には警備員がいて車を誘導している
誘導される車の殆どは重役を乗せた車であろう
助手席は前に倒され 後ろの窓にはフイルムが貼られている
「すいませ〜ん、車が通りますので〜」 と警備員の声が通行人の足を止める
そこへ図体のでかい車が歩道に乗り上げてくる これがいつもの風景である

自動車会社の近くまで来ると いつもの通り警備員が立っていた
少し離れた車道から 左折の合図を出して軽自動車が近づいて来るのが見える
「スイマセ〜ン!! 車が入りますので!! お譲りくださ〜い!!」
いつもとはテンションの明らかに違う警備員の声
いったい何事かと思わず立ち止まる そこへ軽自動車が歩道へ乗り上げてきた
運転席の窓を開け 「有り難うございます」 と言いながら
女性が運転した軽自動車は ビルの中へと消えてゆく
「有り難う御座いました!!」 と警備員の元気な声

こんな日は 素敵な女性と警備員さんに 「乾杯!!」
 
2002/12/15
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