山歩き
 
日高の鳥さん
  

 山を歩くようになってから15年近くになる。もともとキャンプが好きで、子連れでいろいろなキャンプ場へ行っていたが、子供の成長とともに夫婦だけのキャンプになり、いつの間にかキャンプ場近くの山を歩くようになった。

 奥秩父や奥多摩から始まり、八ヶ岳、南アルプス北部と行動範囲が広がり、日帰りは別にして、すべてテントを背負っての山歩きをしている。せいぜい2泊3日の行程だが、長い休みが取れないので仕方がない。3,000mを超える山域へ入るのは夏から晩秋までとし、2,000m〜2,500mの山域を通年楽しむ。とくに春から初夏までがいい。春山では雪と戯れ、初夏には新緑を、できるだけ暑い夏は避け、秋には紅葉を観に山に入る。最近は独りで山に入ることが多くなり、中高年の遭難ニュースに載らないよう細心の注意を払っている。基本は、無理をしないこと、あわてないこと、しっかりと準備をして行くこと。およそ起こりそうなことは想像がつく。リスクマネージメントと思えばいい。

 独りで歩いていると、自分の足音がよく聴こえる。遠くの鳥の声が聴こえる。100m先から人が歩いてくる様子が音でわかる。幸いなことにまだ熊に遭遇したことはないが、通った直後だったことはある。ものすごい獣臭がするので、それとわかる。山に入ると神経がピンと張り詰め、途端に目と耳が良くなる。標高の高い場所で有酸素運動を続けるため、血流が良くなり、血管が広がる。2,3日高い山にいると下山してからしばらく体の調子がいい。血管の中の掃除ができたような気分になる。実際効果は大きいようだ。

 地べたに寝るのも楽しみのひとつ。2人用テントをゆったりと使うので狭さを感じない。−15℃まで耐えられ羽毛の寝袋にもぐりこめば奥秩父や奥多摩辺りの冬も大丈夫。熱燗とおでんと餅で腹を満たせば朝までぐっすり。風の音や鹿の声を聴きながら寝るのも乙なもの。不思議なことに音楽を全く思いつかない。歌も出てこない。衣食住のすべてをザックに入れて背負う。山を登るというより、歩くといったほうが似合う。頭のてっぺんからつま先まで山道具を身に付け、まったく非日常の世界に入る。正に変身だ。この変身願望は死ぬまで止められそうもない。山男に変身していくのがたまらく好きだ。


2010/11/29
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