さくら考 
 
日高の鳥さん
  

日本では桜といえばソメイヨシノだが、全国の80%の桜がソメイヨシノだそうだ。
母をエドヒガン、父をオオシマザクラに持つ交配種で、挿木で作られた人工の品種のために同種間では交配しないクローン桜である。つまり花は咲くが実は生らない。どうしてあんなに花が咲くのにサクランボが採れないの?という子供の質問に、クローンだからといっても分かるまい。

1本の親木から分かれたクローン桜が次々と全国に広まったおかげで、桜前線なる気象用語まで生まれた。同じ遺伝子を持つため、同じ条件下で同時に花が咲くDNAが組み込まれている。桜の開花地を点と線で結ぶとそれが桜前線になり、自然に南下する紅葉前線とは逆に北上する、人工的な自然現象とも呼べる花の仕掛けだ。しかもパッと咲いてパッと散るからみごと。

それにしても、この桜を作った植木職人は今のありさまを想像できただろうか。150年ほど前の江戸で生まれたこの桜には、江戸っ子の心意気のようなものを感じる。全国に広まって日本代表になったが、産まれ育ちは江戸だ。ソメイ(染井)は地名(巣鴨辺り)、ヨシノは吉野山(奈良県)も念頭にして付けた名であろうが、エドソメイなどという名でもよかったのでは。

茨城県桜川市はヤマザクラの名所だ。しかも自生しているため、数種が天然記念物に指定されるほど。筑波山の北側に位置する山里で、昔から南の吉野、北の桜川と呼ばれている。
ソメイヨシノが出現するまで桜といえばヤマザクラに決まっていた。若葉が先に芽吹き、木全体が薄緑に染まるころ追うように白い花が咲く。コブシの次に咲く山の花として遠目にも美しい。

私はヤマザクラが好きだ。コブシもいい。ともに山の木であり、そもそも群生していない。その群れないたたずまい、存在感という点で春山を代表する。そういいながら我が家の庭にはカワヅサクラを植えた。ソメイヨシノより少し早くから咲き、長持ちする桃色の桜だ。まだ寒い春先、梅より他に何も咲いていないころに花開くこの桜の美しさは、また格別のものがある。

  
2012/4/27
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