トトのこと 
 
ジョンジョン
  

トトは真っ黒な野良猫だった。
トトは娘の保育園の隣の公園に置かれたダンボール箱の中にいた。
手のひらに乗るくらいの小さな猫だった。
息子の生まれる少し前だった。
トトは息子と一緒に大きくなった。
大きくなるにつれ凶暴さを発揮した。
決して人に抱かれることはなく、そんなことをしようものなら
彼の爪の猛攻撃を受けた。
しかし何故か私がテーブルの椅子に座っていると、
膝に乗ってきて、そのまま眠ってしまうのが常だった。

トトはよく生き物をくわえて帰ってきた。
トカゲやモグラや鳥をよくとってきた。
それを自慢するように見せに来たが、取り上げようとして
手に大怪我をしたことがあった。

トトはとても賢い猫だった。
子供を連れて公園に行く時は必ず一緒についてきた。
よその家の塀を歩いたり、玄関や庭を散策しながらついてきて
一緒に公園に行った。
私が子供と遊具で遊んでいる時はトトはたいてい木に登っていた。
私たちが帰る時「トト帰るぞ〜!」と言うと、どこからともなく
現れてまた一緒にあるいて帰った。

ある日、ガレージに車を入れようとしてトトを轢いてしまった。
彼の悲鳴が聞こえた。
しまったと思った。
しかし車の下を覗いてもトトはいなかった。
あの悲鳴は絶対に怪我をしているはずだった。
皆で近所を探したがトトはいなかった。
猫は怪我をすると治るまでじっとしている、という話しを聞いて
きっとどこかにいるのだろう、と信じることにした。

2週間くらいたったある日、トトは玄関に座っていた。
嬉しかったのと驚いたのが半々だった。
足に怪我をしていた。
すぐに病院に連れていって、治療した。
幸い骨は折れていなかった。

それからずっとトトは賢く、凶暴だった。
時々私の膝の上で眠った。

私が子供達と別れ、その家を出てからしばらくして、
息子を連れ出して二人で旅行に行った。
トトはその旅行中に死んでしまったそうだ。
私が別居してからずっとトトには会っていなかったから、
別れも言えなかった。

街で黒猫を見かけるとトトじゃないかと思う。
今、もう一度トトに会いたい。
もう一度膝に乗ってくれないか、トト。


   
2013/02/24
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