まんざらすてたもんじゃない 
 
日高の鳥さん
  

愚息が自宅でギター製作と修理を生業とするようになって7年が経つ。
当初はギターショップの下請けをやったが、客の顔が見えないこと、価格、納期などが納得いくものでなかったことから限界を感じ、自らホームぺージを立ち上げて開業することになった。彼はギター製作の専門学校を卒業したが、いわゆる下積みなしでいきなり独立した。これにはかなりの覚悟が必要であり、挑戦といえる。無謀と思う人もいるだろう。ことを起こす前に、専門学校の先輩に国内の楽器メーカーに就職した人がいて、経験談を聞いたらしい。それによると、職場はサラリーマン的で、小さな歯車にすぎないのだそうだ。ひとりでギターを作ることなど当面考えられない環境らしい。

何ごとにも下積みがあって、いろいろ経験を積んで一人前になる。しかし、独創性が尊重される訳でもなく、やり方もいろいろある訳でもない。いかにやるべき事をきちんとやり、いかにきれいに仕上げるかという世界であれば、どれだけ現物に触れたかが問題であり、奉公のような仕事は時間がもったいないと考え、彼は小舟で荒波へ漕ぎ出した。
ぼちぼちと仕事がくるようになると、高級ギターが我が家に送られてくるようになり、同じ人が次から次へ修理を依頼してくるようになった。充分にヒアリングしてから修理に入るので、的を得た仕上りとなることが評価を得たようだ。彼は職人なので、できない、やる必要ない修理は受けないし、納期を即答できる強みがある。ギターを送ってくる人とはメールでやり取りし、現物を見てからできることの範囲を説明し、価格を提示してOKをもらう。我が家にギターを持ち込んでくる人も多く、生の声を聞く。そこではお客がコレクターかプレヤーか、うまいかへたか、ギターへの思いも分かってしまう。

先日、待望のオリジナルギター「バード スポット スマート ジャンボ」1号が完成した。サイズはスモールジャンボだが、ウェストのくびれが大きく、小柄な人でも抱えやすいかたちをしている。ギブソンL-00をひと回り大きくした印象だ。音が大きく、バランスがいい。6弦の鳴りがドーンと腹に響く。特徴はブレイシング、バック板厚、塗装、ネックジョイントなど随所にあるが、抜けのいい余韻が残る音といえる。修理を通して垣間見た一流品の裏側。修理のビフォー&アフターを体験したことが、オリジナルギターに反映されていれば幸いだ。私としては、親バカの気はあるがひと安心。今回の生みの苦しみが、今後の製作活動にどう影響するか、それは彼の気の持ちようだ。出来上がっていくギターを毎日眺めているのもまんざらすてたもんじゃない。ギターは「bird spot」で検索を。

   
2013/03/01
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