富貴と貧賎
山下
 
今日読んだ雑誌の中で、斉藤一斎著の「言志四録」のうち、『言志テツ録』の一部が紹介されていた。
その中で以下の二節が気にかかったのでご紹介したい。
  
「143 富貴と貧賎二則 その一」
 物に余り有る、之れを富と謂う。
 富を欲するの心は即ち貧なり。
 物の足らざる、之れを貧と謂う。
 貧に安んずるの心は即ち富なり。
 富貴は心に在りて、物に在らず。

「144 富貴と貧賎二則 そのニ」
 身労して心逸する者は、貧賎なり。
 心苦しんで身楽む者は、富貴なり。
 天よりこれを視れば、両(フタツ)ながら得失なし。

「その一」は、心の貧しいものは、貧しいが故に余分な物を求め、心豊かな者は物が足りなくとも安心していられる、ということを言っており、
「そのニ」は肉体労働で疲れ、気持ちにも余裕が無くなると貧しいといわれる。一方で、心は苦しんでいても肉体的に楽なことを富むというが、本当は両方とも同じようなものではないかというようなことを言っているように思う。

現代のようなデフレ社会に生きる我々にとって、経済的なことを考えると将来にわたって不安に苛まれてしまい、暗澹たる気持ちになりがちだ。しかしよく考えると、その不安は豊かさを物・金の量で決めるという価値観から生じるものであり、心の豊かさを中心とした価値観から眺めると、違った世界が見えてくるような気がする。


2003/02/05
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