20年の眠り
たんぽぽ
 
20年間、一度も開けなかったギターケースを開けたのが3年前。

別に封印をしたわけではないのですが、高校卒業後、アパートで一人暮らしをしている時、大家さんに、「部屋では絶対ギターを弾かないように」と言われていたので・・ 
始めのうちは近所の公園などで弾いていたのですが、通り行く人の視線に耐えられないのと、わざわざ外に出るのも面倒くさかったのでいつの間にか止めてしまいました。
今の時代なら、ストリートの人がいっぱい居て、すぐに仲間ができたのうだろうけど・・・ 当時はそういう人を見かけませんでした。

そのギターケースを開けるきっかけになったのが、『マーチン』!。(私の中では
『マーティン』ではないのです)

父親参観日なる場で、子供の友人の父親と話しをしていたら、

「私は、フォークが大好きで休みの日は朝から晩までギター弾いて唄ってるんです」
「へ〜・・ どんなのやってんですか?」
「オリジナルがほとんどで、あとは、かぐや姫とか・・・・」
「私も昔、ギター少年だったんですよ。今度、一杯やりながら聞かせてください」。「ところで楽器は何を使ってるんですか?」
「いちおう マーチンです」。「サブギターがオベーションです」
「ひぇ〜、そいつは凄い・・・・」。「いつ頃買ったの?」
「大学生のとき」
「・・・・・・・・・・」

このページの頭にもあるように 『若い頃、手の届かない存在であった・・』 まさしくその通りです。私もマーチンに手が届かず、仕方なくギブソンのギターを買いました。当時、J-45が14万円でした。高卒の手取りが7万円くらいの時で、とんでもない金額でした。ちなみにD-18(その彼の)は、24万円しました。
その憧れのマーチンを、この人の唄を聴いてあげれば触れるかもしれない(当時は、見ることさえ出来なかった)! そう思った瞬間、自宅へ帰ってすぐに押入れの奥からギターを引っ張り出しました。

引きずり出したギターは Sヤイリ YD−305 周りから馬鹿じゃないのと言われながらギブソンを売り払って買った国産のギター。楽器店で試奏をしたら、鈴のような『シャリ〜ン』とした音が出た瞬間「コレだ!」と思った。ちょうどその店員がJ-45を欲しがっていたので商談成立!

ケースを開ける瞬間のときめきと不安は今でもよく覚えています。
20年間、ヘビーゲージを緩めないで張りっぱなし・・・ ネックはもうダメじゃないか? ボディーは浮いてないか? ブリッジは? カビは?その不安はすぐに解消されました。開けてびっくり!思ったよりきれい! とりあえずコードを押さえて弾いて見ると、チューニングもヤヤ合ってる。ネックもブリッジもまったく問題なし。まるで、ギターが「いつでもどうぞ、準備は出来てます。」と言ってるようでした。

このヤイリを買う時、店員に「何でこのギターアジャスターがないの?」という質問をしたら「狂わないから!」。「もし狂ったら?」、「永久保障だからいつでも持ってきて」との事。音が気に入ったのはもちろんの事、ヤイリの職人魂みたいなものを感じて即決してしまいました。
その言葉に嘘はありませんでした。20数年たった今でも健在です
ちなみに私は弦を緩めた事ありません。さすがに今はライトゲージを張ってますが・・・

ミシシッピー・ジョンハートの息子、ジョン・ウイリアムハートが、ドキュメンタリー番組に出てきてこう言った。

昔一度だけ親父にギターを教わった事があるんだ。そのときオヤジはこう言ったよ。「ギターってのは、自転車と一緒さ! 一度覚えたらゼッタイ忘れない。 だから、一回だけ教えてやるよ。」

これは、ウソです! 20年も弾かないでいると、コードは少し覚えてましたが、スリーフィンガーなんてとんでもない! 簡単なアルペジオも出来ませんでした。

あれから約3年、やっと昔の感覚が戻ってきました。今では、ギターを弾くのが楽しくて仕方ありません。まだまだヘタクソですが、生ギター好きという部分では、かなりのもんだと思っています。若い頃と違って上達のスピードはかなり遅いのですが楽しむという部分では、また違った味わいがあるみたいです。

父親参観で知り合ったその彼とは、『マーチン』がきっかけで友人となり家族ぐるみでお付き合いさせてもらってます。酒を飲んでは、ギターを弾き延々と歌う・・・それが元で、今ではバンドもどきのことをやったりなんかして遊んでます。

若い頃、数本あったギター。音楽をやめてしまったときにほとんど処分してしまったのに何故か?一本だけ残した『S・ヤイリ』。
結婚して子供が生まれた頃。押入れにあったギターが邪魔で、女房に、物置にいれてもいい? と聞かれ、「それでけは勘弁してくれ」と言ったら「本当に弾けるの?」と聞かれた時、心の中で、ドキッ! たぶん弾けないだろうと思いながらも「俺は、うまいんだ! だけど今日は弾かない!」と負け惜しみを言ってた頃が懐かしいです・・・

長々と書いてしまいましたが、『私にとってギターとは・・・』切っても戻ってくるもの!生活の一部。 『ブルース』なのかも知れません。 私の一番好きなブルースマン、『高田渡』さんの唄に、夜の灯というのがあります。

♪おんなの股ぐらから 故郷のような夕日が見えるのはなぜだろう〜

私にとってギターとは 『故郷のような夕日』なのかもしれません。

2003/03/05
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