2012年11月15日
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「○○とギターは古いほうがいい」
 
(いがりまさし/1960年生/愛知)


 今思えば分不相応な買い物をしたものだと思う。ジョン・レンボーンに憧れてフィンガーピッキングを始めたのは、二十歳になるかならないかの頃だった。
 現在もだが、当時、日本でその世界をリードしていた中川イサトさんが、ラリビーというカナダのギターをもってさっそうとライブをしていた。初めて見るカッタァウェイ、美しいインレイにまず憧れた。そして、
 「フィンガーピッキングをやるなら、マーチンでなくラリビーだよ」
 というイサト師匠のお言葉に直接触れ、購入は決定的になった。
 幸いにして、年度の初めに申請していた育英会の奨学金が、半年ほど遅れて降り始めていた。これをローンに充当すれば無理なく支払える。
 「楽器はいいものがいい」ピアノ教室が稼業だった両親を騙す?のはいともたやすいことだった。
 しかし、30年を経た今、ヴィンテージと呼ばれる域に達したこの楽器、その歳月を経たものにしかない独特の響きがある。
 癖も強い。合わない奏法、合わない楽曲も多々ある。それでも、絶対手放すことのできない一本である。とにかく30年という歳月がこの楽器に宿っている。○○とギターは、とにかく古いほうがいいに決まっている。
 とはいえ、メリルやコリングスがいいと聞くと、新しい楽器にも目移りする。それが、をのこの性なのかもしれぬ。



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