2014年5月15日
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「あるギターとの出会い」
 
(KAME/1951年生/群馬)


 先日あたしは街に飲みに行った。昼の12時から飲み始めて午後6時ころ意識を失った。自転車で帰るはずだったのだが、店の人が気を遣って下さって、タクシーを呼んでくれた。ぐにゃぐにゃのあたしをタクシーに乗せて下さって行き先は群馬の森の方だと伝えて下さった。群馬の森の方とは30年前まであたしが住んでたところなのだ。その近辺で起こされて、「おれんちはこんなところじゃねーやい」とクダを巻き、どうにか自分ちの住所を告げてやっと帰ってきた(のだろうたぶん)。翌朝確認したところタクシー代として、4000円が消えていた。

 イタタタ、アタマも痛いが財布にも痛い。でもこれも身から出た錆び、あたしさえしっかりしてれば、なんでも無かったのだ。4000円(通常は2000円くらい)は高い授業料として諦めよう!!」ということで、気を取り直し、街に置き去りにした自転車をクルマでとりに昨日の飲み屋へと向かったのが午前9時半。

 クルマを走らせて県道に出てしばらく行った時あたしは見た。おばちゃんがネックのついた楽器らしきものをゴミのビニール袋の山の横に置くのを。ついクルマを停めてあたしはおばちゃんに聞いた。「それ要らないんですか?もらっていいですか?」。おばちゃんは頷いてそそくさと角を曲がっていってしまった。ギターだった。共鳴部分だけビニール袋に入っている。とりあえずクルマに積み街へと急いだ。

 家に帰ってきてギターをじっくりと見た。モーリスF-20、合板だがなかなかいいギターだ。1970年から90年くらいの制作年代か?埃まみれだけど、きれいに清拭し弦を張り替えると新品同様になった。ほとんど弾かれていなかったものらしい。Fは「フォークギター」つまりマーチンで言うと、000サイズの薄め、小さめのギターっちゅうこと。20は20000円ということであろうか。1970年80年の20000円はなかなか貴重なものである。MORIDAIRA楽器ではなくIIDAGAKKIとあって、調べてみるとモーリスが売れていたころ、自社のみでは対処できずに飯田楽器、寺田楽器等に発注したOEM製品らしい。指板の手垢も殆どない美品であった。

 自転車を街に置いてこなければこのギターとめぐり会うことも無かっただろう。ああ、なんという運命の偶然、奇跡。2000円損して20000円得しちゃった運命的な不思議な朝であった。あたしは「D」サイズが好きでこういう小さめのギターは持ってなかったので、不思議な糸で結び付いたこのギターを大切にしていきたい。そう思ってきつく可愛いギターを抱きしめるあたしであった。

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