娘のピアノ
元祖キカイダー
  

あれは今年5月のゴールデンウィーク中のことでした。

娘(6歳)がピアノを弾いている。
ヤ○ハ音楽教室に通わせているので、練習をしているんです。
実はこの娘に「奏」(かなで)という名前を付けてしまったため楽器の一つも弾けないと将来イジメられるのではという不安が頭の中をよぎったもんですから・・・。
(なんという親バカ!)

そのピアノ(中古のアップライト)の音が非常に良い具合である。
なぜだか判りませんが良い音を出してるんです。
いえ、間違っても娘の腕が上手いわけでは無いんですよ!
その娘がピアノを弾くのに飽きたのか外に遊びに行ってしまいました。
しめしめと思い、早速ピアノの試奏を。

「どれどれ、父ちゃん(私のことをこのように呼ばせている)も弾いてみるか!」
このときこんな事を思わなければ・・・。

「フーン、これがヤ○ハで習ってる教科書かァ!こんな簡単スコアはちょちょいのチョ・・・ィ・・・と・・・」
(今、気づけばよいものを・・・年甲斐もなく。)

「おや〜!簡単でもないかな?」
(まだ気づかない!早く気づけ!)

「30年ぶりの鍵盤だから指が忘れちゃったかなぁ?」
(指に脳みそは詰まっとらんだろ!)

「む、難しいかもしれないなー!6歳にしては・・・」
(サルなみの技能と知能だということに早く気づけ!)

「おーし、弾いてやろうじゃないの!ええ?」
(あ〜あ、むきになってるよ、やだねー)

「こうか?うん?こうきて、あーして、こーして・・・」
(だから、あんたにゃ無理なんだってばー!)

「ドリャー!これでもか?こなくそ!ここか!あらよっとぃ」
(掛け声で弾けりゃ世話ないって)

「はぁ、はァ、ハァ、なんだか息苦しいぞ」
(息するのも忘れてんのかい?)

「そうだ呼吸を整えよう!ヒッヒッフー、ひっひっふー」
(それじゃお産だろ、産みの苦しみってかァ?)

「い、いてててて、痛い、指つった。指!」
(いわんこっちゃない。早くやめとけって)

註:( )内はすまして聞いている妻の独り言と推測される

そうこうしているうちに外で遊んでる娘が帰ってきた。

「父ちゃん、この曲はね、こーやって弾くんだよ」
いとも簡単に全曲とおして弾きくさりやがった。

何か言わねば父親としての威厳が・・・。
「あ、あとは好きに弾いていいからね!」
(誰も弾いちゃいけないと言ってないだろ)

私は心の中でつぶやいた。・・・されど老兵は死なず、ただ消え去るのみ・・・
おもむろにピアノに背をむけ、ギターのチューニングを始めたのであった。

「い、いてててて、また、指つった、指!」


2004/07/30
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