変な気持ちになったある日
東田
 
私は月に1回程度の割合で、大阪に出る。
車だったり電車だったりする。電車だと特急で1時間半ほどで大阪に辿り着く。

それは、帰りの電車だった。1日の仕事も終わり、禁煙指定席に座り、ゆっくりと本でも読もうと少し座席を倒した。すると後ろの席の若者が丁寧な言いまわしだったが「すいません、もう少し座席を起してくれませんか?」と言った。おっとこれは申し訳ないと思い「あ、どうもすいません・・・」と言って座席を戻した。

指定席はガラガラであったが「コンピューターが選んだ席である。しかたあるまい・・・」と思い本を読んでいたが、やはり少し座席を倒したくなった。車両内は数人の乗客だけであった。私は若者から離れ、ふたつ程前の空席に移動して、その座席を倒してゆっくりと本を読み始めた。

しばらくすると車掌が検札に現れた。私は自分の指定席番号ではない座席だったが、検札の際にこれも何時もの事だが、車掌は別段何も言わない。そして、若者の検札となった。少し声が聞こえて来た「じゃあ指定席と特急券で○,○○○円です。それと○○駅でお乗り換えの際、次の電車でも指定車両ではこのように適当な空席にお座り下さい・・・」

え!? 彼は、指定席券を持っていなかったのか・・・?
ということは適当に私の後ろに座っていたのか・・・それなのに「すいません、もう少し座席を起してくれませんか・・・」って・・・これって少し変ではないか。コンピューターは座席が空いていれば知らない者同士は集まらないように指定席を選ぶ。

そうだったのか・・・
こういう場合、後の席を確認せず、了承も取らずに座席を倒した私も悪いが、指定席でもない席に座って堂々と「倒さないで下さい」というのもおかしいだろうと思った。そういう状況なら、やはり彼が移動するべきだろうと思った。

電車は私の降りる駅に到着した。例の後ろの若者の目的地はまだ先のようである。私が降りてホームから車中の彼を見た。夢中で週刊漫画雑誌を読んでいた。その席は後ろに倒されている。もちろん後ろには誰も座っていない。その顔が少しアホに見えた。虚しさでもなく、腹立たしさでもなく、反省する気持ちでもなかった。

初めて味わった変な気持ちで私は我が家に向けて歩き出したのであった。
何故か「私の青空」を口ずさみながら・・・


 
2002/12/16
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