2004年6月15日
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「どこに行ってしまったのだろう・・」
 
(鈴木/42歳/東京)
 
初めて手にしたギター、御徒町にあるディスカウントショップで父に買ってもらった。たぶん5〜6千円、はっきりは覚えていないが小学5年の私にとっては高額なものを買ってもらい、家に帰るまでの興奮は今でも覚えている。

「ギターが欲しい!」と思ったきっかけは、ある夏休みに親戚のお兄ちゃんがフォークギターをかかえて、チューリップの「心の旅」を弾いてくれた事だった。
「かっこいいな、いい歌だな」と思った。

その後、父にギターを買ってもらいその曲を毎日練習していくうち、「何か違う、お兄ちゃんが弾いていた音の感じと違う・・?」
ギターの知識など何も無いまま買ってもらったのは、ガットギターだった。フォークギターが欲しかったのに・・・

でも、そのガットギターを毎日のように弾いていた。
「弾いていた」、と言うより「鳴らしていた」程度だったのだろう。
たぶんチューニングなど、全く出来ていなかったはず。
姉が買って来る「明星」「平凡」の付録のソングブックを貰ってかぐや姫や井上陽水などを、詩の意味もわからず練習していた。

その後、興味はエレキギターに移りベンチャーズやハードロックに夢中になるというありきたりな道を歩む。エフェクターで歪ませた雑音とも思えるエレキサウンドに魅了され、そのガットギターには、目もくれなくなっていた。
 
数年が経ち、再びアコースティックの音に心を動かされるようになった。
そしてマーチンを手にしたのは40歳。
きっかけはエリック・クラプトンの「アンプラグド」と言うアコースティック・ギターだけのアルバムにえらく感動し、000-28ECを購入した。

御茶ノ水の楽器店からの帰り道、地下鉄に揺られながら初めてギターを買ってもらった時の興奮と似た感覚が、蘇ってきた。
子供のように、はしゃぎたい気分だった。

今、我家には数台のギターが置いてあるが、ついついマーチンに手が伸びてしまう。他のギター達も弾いてあげなくては、と思うのだが。

ただ一つ残念な事に、父に買ってもらったガットギターがそこには無い。
どこへ行ってしまったのか、記憶がない。

ときどき、「ティアーズ・イン・ヘブン」のガットギターの音色を聞いていると、あのガットギターと20年前に他界した父の顔が、心に浮かんでくる。
 
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