2006年12月25日
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サボテンの花
 
(KAME/1951年生/群馬)


朝か?頭が痛い。ゆうべは何時まで呑んだんだっけ。
おい、水、みず、あれ、いない。隣に寝ているはずの妻がいない。
消えた、妻が消えた!何だこりゃ?手紙だ。
二日酔いの頭を揺すって目を凝らす。なんだ「サヨナラ」って??
博多出身のお前が群馬からいったいどこへ「サヨナラ」なんだ。
とりあえず駅まで行ってみることにする。
当時クルマに乗れなかったおれは自転車で駅まで急いだ。
その時おれの頭の中で鳴っていた曲。チューリップ「サボテンの花」。

 「ほんの小さなできごとで 愛は傷ついて 
  君は部屋を飛び出した 真冬の空の下に」

うんしょ、うんしょ、このペダル重てえ。

  「絶え間なく降り注ぐ この雪のように キミを愛せばよかった 
   窓に降りそそぐ この雪のように 二人の愛は流れた」

そう簡単に流して堪るか。うんしょ、うんしょ、汗びっしょり。駅まで来ちゃった。
どうするべえ、このままウチに帰ったんじゃそれこそ「サボテンの花」に申し訳がたたない。羽田くらいまでは行かなくっちゃ。高崎線に乗り、モノレールに乗り換え羽田に到着。人込みを縫って急ぎ足でヒトを捜すおれって、テレビドラマの刑事みたい。でも、もう妻がいるはずもなく肩を落として一人で群馬に帰るしかなかった。結局妻は博多の実家に戻ってしまったのだ。

彼女とは大学のフォークソングクラブでバンドを組んでいた。その時歌っていた歌も良くなかったかも。「遠い世界に」だ。赤い風船に乗って九州まで飛んでったって言うのか。考えてみりゃあ、当たり前だ。週に三回のヘベレケの朝帰りじゃあ。でも、こんな男のところに妻は帰ってきてくれた。二か月後ではあるが・・・


それ以来の三十年、紆余曲折、臥薪嘗胆、堅忍不抜、波乱万丈、焼肉定食の日々ではあったがかみさんはなんとかついて来てくれた。有難いことである。
そして結婚三十周年だという今年、なんと彼女がギターを買ってくれたのである。マーティンD-42!!いい音、いい形、いい匂い!すっかり嵌った。仕事から返ってきては眺め、さすり、頬擦りする日々。ネットから歌える歌の歌詞を拾い、老眼でも見えるように拡大印刷してコードをつけて毎日歌っている。歌える歌の歌詞カードはなんと八十三枚にもなった。指先もすっかり硬くなり、最初は出なかった高音も少しずつ出るようになった。そして「戦うオヤジの応援団」にも加入させて頂き、練習会や忘年会にも出席して同じようなオヤジたちと交流している。

そんなある日、忘年会で知り合ったデイヴさんからメールがあった。
好きな音楽はウエストコーストのロック。先日歌ったのは・・たしか「明日に架ける橋」と「デスペラード」上手かった!おれが歌いたかったけれど、難しくて歌えなかった二曲。なんか、好きな曲の傾向が似ている。アメリカンポップスも好きだけど、なにしろ若い(四十代前半)。リアルタイムではないので、昔の歌のことなど教えて欲しいとのこと。快諾。バンドを組むと言うわけにもいかないが(遠距離恋愛なので)、集まりの時にお互いの歌にハモをつけるくらいはやってみよう!!ということになった。ユニット名はなんにしよう・・と、いくつか考える。

「メタボ&コレステ」(なにしろおれと『デイヴ』だから)
「KAME&デイヴ」(サム&デイヴのもじり)
「コレステローラーズ」(まんま)
等考えたが、ウエストコーストの音楽が好きと言うことで
「ウエストロースト」これに決めた。
うえすとがローストビーフだっちゅうこと。楽しくなってきたぞー

てなわけで、ギターのおかげで充実した日々をおくっているおれではあるが、テレビの音がおれの歌でほとんど聞こえなくなった妻は今、ギターを買ったことをつくづくと後悔しているらしい。

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