2010年9月19日
<エッセイ一覧へ>

「病気が治りました、という話」
 
(鱸/19--年生/東京)


中学生になった頃、当時流行していたニューミュージックに夢中だった私は、親にねだってフォークギター(当時はまだ「アコースティックギター」という呼称は一般的ではなかったと思います)を買ってもらいました。買ってもらう時の約束は、「弾くのは休日だけ」ということでしたが、手に入れてしまえばこっちのもの。約束はいつの間にかウヤムヤになり、毎日毎日弾いていました。

初めて練習した曲は、教則本の1曲目に掲載されていた「ジャンバラヤ」。2つのコード(確かDとA)しか出てこないので、簡単といえば簡単でしたが、そもそも知らない曲なので、弾けてもそれほど嬉しくなかったと記憶しています。寧ろ、早くさだまさしやオフコースの曲を弾き語れるようになりたいと思ったわけですが、その辺りの曲を弾くにはバレーコードという壁を越えなくてはならないわけで、壁を越えるのには数ヶ月掛かりました。

一般的にはFが壁になると言われていますが、私は寧ろBの方が苦手でした。234弦の同フレットに指が密集するのが、どうも上手くいかなくて。FよりBの方が苦手なのって、私だけでしょうか?

そうこうしている内に、それなりに弾き語れる曲が増えてきて、人前で披露したくなるわけです。生徒会関係のツテがあったので、それにかこつけて学校内で発表できる場を持つことが出来ました。全校生徒(700人くらい)の前でビートルズとS&Gの曲を友人と2人で歌ったわけですが、そんな大勢の前でギターを弾くことって、社会に出てからは数回しか無いですね、よく考えてみたら。ガチガチに緊張しても良さそうなものですが、当時は大勢の前で歌うことの怖さを知らなかったので、落ち着いて演り切ることが出来ました。おかげさまで割と評判も良かったのですが、もしもあの時のレスポンスが悪かったら、案外そこでギターを止めていたかもしれません。その点では、あの時の演奏が私の人生を少なからず左右した、と言えます。ちょっと大袈裟ですが。

その後、ニューミュージックが下火になりバンドブームが訪れたりして、私もいつしかフォークギターをエレキに持ち替えて高校〜大学を過ごしましたが、フォークギターで覚えた基礎は役立っていたように思います。ギターの音を左右するのはピッキング(ピック弾き・指弾きを問わず)というのが私の持論ですが、エレキよりはフォークギターの方がそれを理解し易かった(と言うよりも、私の場合おそらくエレキでは理解できなかった)ので、その点でフォークから入って良かったなぁ、と思っていましたが、数年前からクラシックギターを習うようになって強く思うのは、最初からこれをやっておけば良かった、ということです。

ギターだけで完結するような曲(今で言う「アコギインスト」)を弾けるようになりたいという考えから、クラシックの曲をフォークギターで練習してはいたのですが(荘村先生の「ギターを弾こう」を見ながら独学)、先生に師事し改めて本格的に基礎から習ってみると多くの発見がありました。同じ基礎練習でも目的を明確に意識することにより効果が全く変わりましたし、音の出し方についてもより微妙なニュアンスで捕らえることが出来るようになり、今までとは明らかに違った感覚でギターを弾くことを楽しめるようになりました。「出来ないことを練習して、出来るようにする」ことは、ギターに限らず人生の喜びの一つだと思いますが、今は、当面の課題(近い将来出来るようにしたいこと)と将来的に達成したい大きな目標を一つの繋がりとしてイメージすることが出来るようになり、ギターを長い趣味として考えられるようになりました。この楽しみに気づかせて下さった素晴らしい先生に、私は心から感謝しています。

ところで、クラシックギターを習いだしてから、私のギター所有欲は著しく低下しました。アコギを中心に弾いていた頃は、暇さえあれば神保町に通い、良いギター・変わったギター・レアなギター・お買い得なギターがあるとうっかり買ってしまい、帰宅後に「また、やってしまった」と反省するけど何ヶ月か経つとまた同じことをまた繰り返すという重い病に罹っていましたが、完治しました。

手工、オールド、ビンテージと無駄に本数が多かったアコギも、クラシックばかり弾くようになって触る機会が減ったので1本だけ残して他は全て手放しましたが、その残った1本もライブで使う時以外は触ってませんね、そう言えば。ジョギングが趣味の人が、ときどきゴルフもやるけどコースに出る時以外はクラブを握らない、という感じでしょうか、って、私はジョギングはしますがゴルフのことは全く知らないんで、例えが変かも知れません。因みにクラシックギターで練習するのとライブで演奏するのは、まったく別ジャンルの音楽です。

と、いうわけで、ギターが増殖してお困りの方は、クラシックギターを習ってみると良いかも、という話ですが、人によっては病状が悪化して、現在のコレクションにクラシック分が上乗せされてしまうかも知れません。ご注意ください。






エッセイ一覧へ→
トップページに戻る→