2011年12月25日
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「冬の向こう」
 
(イワウメ/ 1945年生/北海道)


 忘れることができない、3月11日。今年もあとわずか、師走の風の中にいます。
 ここは北海道の片田舎、冬は一面の銀世界、そしてヒリヒリ、ギシュギシュの寒さです。
 こんな土地に、今年は福島県からお母さんと子どもさんが移ってこられたのです。お父さんは仕事で福島の方に残っておられ、離ればなれの生活とのことです。雪の多いこの地で迎えるはじめての冬の生活、どんな思いで過ごされているでしょう。胸が痛みます。
 今大震災の被災地も深い雪に埋もれていることでしょう。厳しい寒さに耐えながら、春の日を心待ちにしていることでしょう。
 やがて陽の光がやわらいで、遠い山々の雪も消え始めるでしょう。そのとき、人々が目にするのは、本当の春なのでしょうか。心の中にしみ込んでいる春でしょうか。身体が覚えている春でしょうか。大好きだったあの春。
 けれど雪が消えたあと、目の当たりにするのは春とは呼べない季節。あの美しかったふるさとはないのだと、改めて突きつけられる季節、愛する人や、いつもそばにいてくれた人がやっぱりいないことを、もう帰ってはこないことを、二度と会えないことを思い知らされる季節。山の雪がすっかり消えても、心寒く辛い季節が続くでしょう。いつか、本当の春が来ることを信じながら、その日まで。私も一緒に待ちつづけ、祈りつづけていたい。
 私は一人暮らし。毎朝雪はねをして、雪の中から車を出して、時には日に二度も三度も黙々と雪をはねて一日が終わる、そんな単調な日々。
 でも年が変わって1月22日には楽しいことがあります。北海道SP富良野、第4回練習会の連絡をもらったからです。そうとわかれば、雪の空を見上げて、ぼやいてばかりはいられません。その日に向けて、さあ練習。
 たった一つの楽しみなこと、ヘタなギターを弾きながら歌うこと、一向に上手にならないけれど、でもやっぱり楽しい。こんな楽しみがあってよかった。仲間に会える楽しみもある。一緒に歌い、音を重ねる楽しみもある。SP富良野はとっても温かい場所。
 それにしても…と思う。歌もギターももう少し上手だったら、ふるさと、福島を離れて慣れないこの地で暮らしている、あのお母さんと子どもさんに歌のプレゼントができるのに…。
 今からでも一生懸命練習すれば、間に合うかしら。




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