2014年6月22日
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「最高のおもちゃ」
 
(アオキシンジ/1975年生/東京)


五月の井の頭公園でのイベントに参加させていただきました青木です。まだ新参者なので大変恐縮ですが、少しこちらのコーナーに書き込みをさせていただきます。

高校生の時にアルバイト代で安いギターを手にした当時は、それこそ『人真似』ばかり。長渕剛や浜田省吾といったシンガーソングライターの楽曲や、ビートルズなどの定番曲の数々を仲間内で貸し合っては聴いて、ここの部分はああでもない、こうでもない、と模索しながら勉強そっちのけで毎日練習していました。スコアはなかなか買える物でもなく(高校生には高価なのです…)、実際にそのアーティストがどんなコードを押さえているのかは度外視で、本当に聴いたままで真似していたので、数年経ってから『あの曲は実はチューニング自体を変えていた』などの事実が判明したり…、ともあれ、一つのフレーズについて色々考える時間があった事で、誤解や曲解はあったにせよ、自分から探りにいく喜びを実感出来たからこそ、今でも嫌になることなく楽しくギターという物に触れていられているのかな、と感じています。

高校を卒業してすぐ、自分は旅回りがメインの小さい劇団に入りました。小学校の体育館などで年に一回お芝居を観たりされた記憶がある方もいらっしゃるでしょうが、そういった仕事をしていました。それこそ北海道から沖縄まで、21歳の時位までには日本の都道府県を全て回ったと思います。その道中のトラックの荷台には、常にギターを積んでいました。時間がある時、また、訪れた先の街の駅前などに持って行っては、その場その場で曲を作っていました。当時は『ただ人のコピーを自分が歌ってもつまらない』という気持ちから、今で言う『似顔絵描き屋さん』みたいなノリで『歌屋さん』みたいな事をしていました。まず僕にあなたのお話を5分でも10分でもお聞かせ下さい、それからあなたへ一曲作って歌います、みたいな遊びですね。特に録音するわけでもなく、ただ、足を止めてくれた方と自分との会話として、歌がある。そんな感じで、お金には全くならない活動でしたがとても楽しく過ごしていました。

親の具合が芳しくなくなり芝居の世界を出て、会社務めを始めてもう何年も経ちましたが、この時の経験は自分の財産です。現在は吉祥寺の『南郷7丁目』さんなどで、週に一回、土曜日の夜に行けるか行けないか位のペースではありますが、細々とギターに触れては幸せを噛み締める日々です。

音を楽しむ。その場に居合わせた人々と、その偶然を喜び合う。そのツールとして、ギターがある。自分は決してギタリストではなく、『最高の時間』製造機であるギターという『最高のおもちゃ』が大好きな、少々年を食った子供です。また、自分と同じ匂いのする方々が大好きです。性別も年代、肩書きも関係なく、その瞬間だけは全員子供でいられる。そんな瞬間が大好きです。

自分の通っている『南郷7丁目』さんだけでなく、現在は各地で様々な素敵なお店がオープンしています。皆様も、たまにはそういった場所へ出向き、新たな発見や出会いを重ねていかれるのも楽しいと思います。ああ、行って良かったな、楽しかったな、と感じられる時があれば、多少仕事などでつまらない事があっても、一日が報われる気がするのです。
楽しいですよね、ギター。大好きです。




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