2015年11月12日
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「ギターと実話怪談と僕」
 
(ひろみつ/1960年生/大阪)


僕が、アコースティックギターの素晴らしさと出遭ったのは中3の秋、ある雨の午後。学校から帰って部屋でボンヤリしていると、近所に住むクラスメートのO君が「おい、中島、レコード買いに行こうや」と誘いに来ました。
昭和50年の秋。ケチンボのお袋が珍しく「これで買っておいで」と確か5千円くれた。

僕らは、いまはもうない阪急豊中駅前にあったレコード屋に直行。その時僕の中では買いたいアルバムは決まっていた。当時、大ヒットしていた映画「ゴッドファーザーPartⅡ」のサントラ盤だった。僕はその頃、ロックにもポップスにも関心がなく、映画のサントラ盤ばかり聞いている変な少年だった。

店内で、お目当てのレコードを見つけ「これや」と思っているとO君が「お前、いっぺんこれ聴いてみろや」と薦めてくれたのが、サイモン&ガーファンクルだった。気が付いたら僕はS&Gの「Greatest Hits」、O君はミシェル・ポルナレフのアルバムを抱えていた。僕の部屋でさっそくアルバムを聴いた。いきなりガツンと来たわけではない。1人になって、繰り返し聴くうちに、気が付いたら大好きになっていたのだ。2人の美しいハーモニー、素晴らしいメロディ、ポールの書く、知的で難解で哲学的な歌詞。

そのうち、ポールの弾くギターが耳について離れなくなっていた。その時、たまたま親戚にもらったヤマハのギターがあったのも、いま思えば運命的。でもギターを弾こうと思ったのは高校に入って間なしの頃。土曜日になると必ず学校にギターを持ってくる奴がいて「いいなぁ」と羨ましくなったのがキッカケ。しかし、人一倍飲み込みが悪く、不器用だった僕は最初は弾くどころの騒ぎではなかった。まずコードの意味がサッパリわからん。指は痛いし、意味は分からんしどうにもならないほど駄目だった。

それでも艱難辛苦の甲斐あって、Emが押さえられるようになり、やっとこさコードをかき鳴らすことはできるようになった。初めてレコードと同じように弾けたのは「スカボローフェア」だった。あの摩訶不思議な不協和音が弾けた時の感激はいまでも覚えている。スリーフィンガーをマスターし、段々ギターが弾けるようになると、ポールのギタープレイの凄さも、マザマザと実感できるようになった。周囲でギターを弾いてる洋楽好きの奴らも口を揃えて「ポール・サイモンはギターがとんでもなく上手い」と断言するのが僕にも実感できるようになった。

「ギターインスト」というジャンルを知ったのもポールだった。世界で最も有名なギターインスト「Anji」を聞いた時はぶっ飛んだ。まだ耳コピーなんて思いもよらない頃だったので必死でタブ譜を入手し、憑りつかれたように練習し、マスターした時の喜びは格別だったし、「ポール・サイモンはギタリストとしても天才だ」と改めて実感した。そして歌詞がなくてもギターの演奏だけで成立する音楽があるんだと初めて知った。

そこから、ブリティッシュフォークを知り、ジョンレンボーンを知り、彼のギターにこれまたショックを受け、僕は「ギター」という楽器が好きになっていた。そして友人の家にいって、「中川イサト」という存在を知り、彼の「1310」を聞いた時は、大変なショックと感動を受けた。ギターインストを日本人でやってる人がいたことにも感動したが、そのアルバムの素晴らしさに感動した。それは、決して借り物ではない、「日本」「和」の匂いを感じさせるオリジナリティの高い作品だったのだ。このアルバムの譜面集が出たので、しばらく僕はギターインストを練習しまくり、それがいまに続いている。

僕のギターヒーローオールタイムベスト10は 

*ポール・サイモン
*ジェイムス・テイラー
*ライ・クーダー
*ジョン・レンボーン
*中川イサト
*吉川忠英
*住出勝則
*チェット・アトキンス
*マイケル・ヘッジス
*スティーブン・スティルス

なんである。

そして音楽、ギターと並行して、幼いころから好きだったのが「怪談」である。幼いころから不思議な話が好きだった。しかし、人前でそれを語ることが無かったが、1990年代終盤に出た実話怪談本の金字塔「新耳袋」シリーズに偶然出会い、くすぶっていた怪談好きが復活。シリーズ全10巻を揃え、最近人前で語るようにもなり、スカイプで仲間同士でしばしば怪談を語り合う、物好きなこともやっているし、自分でも身近な人から蒐集するようになった。「新耳袋」の著者中山市朗さんが定期的に自分の書斎で行う「プライベート怪談会」にも参加している。

様々な方の体験談を聞いていて断言できるのは「実話怪談にオチはない。そして霊感のあるなし、幽霊のいるいないは全く関係ない」ということ。むしろ、自分で「わたしは霊感ある」と言う人の話しは単なる報告で怖くないし、つまらない。そんな物とは無関係な人が普通に日常生活を送っていてフッと何の前触れもなく異常なことに出くわす、そのギャップが怖いのだ。そこで見たものが「幽霊か?」となると、それはまた別の話で、誰にもわからない。それに実話怪談の内容も幽霊に限らず、狐狸妖怪の目撃談、UFOと実に多彩。

もしご希望者がいれば、お話しして差し上げてもかまわん。

まあ、そんなこんなで、音楽、ギター、実話怪談、そして今回は触れなかったが映画、本、演芸は僕に絶対欠かせない要素なのである。

 



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