2004年6月7日
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「そもそもの...間違い」
 
(S.S/51歳/千葉)
 
人には知らなくてもいいことが...ある。いや、知らない方がいいことが...。

それは30数年前に遡る...細かい経緯は記憶の外側にあるのだが...
一台のギターを弾いてしまったことから、それは始まった。


マーチンのギターを延々2時間...あたりかまわず目一杯...弾きまくってしまったのだ。

日本楽器の銀座店...厳重なガラスケースを無理矢理...開けてもらって...

長髪に無精髭をはやしてレイバン風サングラスに...イミテーションレザーのロングコート...


身なりのいかにも怪しい若造に....よくもまあ...高価なギターを弾かせてくれたもんだと
今、思い出しても信じがたいことでは、あるのだが...。

当時の初任給が4万円だったのに、そのギターは...20ヶ月分の値段がした。
マーチン D-45...

当時マーチンのギターなんて滅多にお目にかかれなかったし...まして試奏するなど...
想いもしなかった。
その時の2時間は完全に異次元空間であった...
時の流れも、俗世のいとなみも...総てが完全停止
あらゆる煩悩から解き放たれた自分がそこに在た。...至福の時♪
いや...自分ではなく...ひとつの...『素』が...そこにあった...。

音楽とギターを封印した20数年。
反対された結婚、子育て、貧困、転職、自分を犠牲にしたわけではないが...
余裕がなかった時代が終わった。 

ある日、なにげなく弾きだした古いギター
開けてしまった...『パンドラの匣』
 
人には持たなくてもいい物が...ある。いや、持たない方がいい物が...。

何時の間にやら、何処からともなく集まってきた...魑魅魍魎どもに囲まれて...
今...どうでもいいことに...うつつを抜かしている自分が...在る。
(後姿はどう写るのか?かなり不安であるが)

知らなければ...いいお父さん...でいられたものを...

たとえ、呼ばれなくとも絶対に弾いてやる!
D-45で『Amazing Grace』...娘の結婚式で!!!
 
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