2004年12月26日
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「時代は廻る」
 
(Hiro/47歳/東京)
 


今年に入って無性にギターをかき鳴らしたい衝動に駆られました。何故だろう?1970年代、和製ブルーグラスバンドを組んで、音楽に夢中になっていた頃が懐かしくなってきたのです。

大学を卒業し、社会の荒波にもまれ、無我夢中で突っ走ってきた20数年でした。でも、ここいらでちょっとだけ立ち止まってみたくなりました。少々背伸びをしてきた自分に疲れたのかもしれません。
そう思ったとき、忘れていたことがふっと頭に浮かび、「あっ、しばらくぶりで弾いてみるか」という気分になったのです。何故だか説明はつきませんが、兎に角、弾きたくなったのです。

学生時代、バンド仲間と飲み歩き、音楽談義を熱く戦わせていた時に、「ブルーグラスをやりたいなら、ギターはやっぱりD-28だ」ということで、地方の田舎町から夜汽車に乗って御茶ノ水の楽器屋に飛び込んだことが思い出されます。数軒の楽器屋をはしごしました。
その当時、私が住んでいた田舎町では、マーチンはショウケース越しに眺めるもので、実際に手にとって演奏するものではありませんでした。マーチンはギターであってギターでなかったのです。ですから、あの時は、寝不足と緊張とで、どのD-28を弾いてもそのパワーと音色に驚くだけで、どれを選んで良いのか全くわからずじまい。結局、「エイ・ヤー」と清水の舞台から飛び込む思い出で選んだ1本が、今、所有のD-28です。

しばらくぶりで弾くギター、昔のように左右の手と指が動くのか?不安と期待が入り混じった複雑な心境でした。暗い納戸の片隅でケースに入って辛抱強く待っていたD-28。恐る恐るケースを開いてみると、トップに若干のクラックはあるものの、「いつでもOK!! 」と言わんばかりのヤツがいるではありませんか。
弦を張替え、チューニングを終え、慎重にコードGを押えて、1弦から6弦までをかき鳴らせば、「待ってました」とばかりの、ドン・ガリン・シャリンの響き。そこにいるのは、一層貫禄を増したヤツと昔の私でした。

今では、すっかりヤツの虜となり、昼夜を問わず時間を見つけては、かき鳴らす日々です。「また、昔の仲間とバンドをやりたい。」時代は変わっても、変わらないものはあるのだということを痛感させられたこの1年でした。


 
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