2010年6月14日
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「片隅での心遣い」
 
(迷宮/1967年生/静岡)


小学校3年生の時の学校の先生がギターの好きな先生で、教室にギターを持ってきては「あの素晴しい愛をもう一度」とか「遠い世界に」など、歌集を作ってクラスのみんなでギターに合わせて歌を歌っていました。ザ・ベストテンで見たアリスの「涙の誓い」に衝撃を受け、レコードを買って5年生の時に自分でもギターを始めました。学年のお別れ会にギターを持って行き「チャンピオン」を弾き語りしました。最後のリフを決めたあとで、大好きだった雅美ちゃんが熱い視線を向けてくれたことが今でも脳裏に焼き付いています。

アリスのシングルレコードのジャケットに「作詞・作曲:谷村新司、編曲:石川鷹彦」とあり、当時から「音楽を作る」ことに興味をもって、「どうしてこんな曲を作れるんだろう」「この音はどうやって入れているんだろう」「こんなとこにこんな隠れた音が入っていたぞ」などと思いながら、思い浮かんだメロディを楽譜に書き留めながらギターを触っていました。シングル曲よりも、アルバムの片隅の目立たない曲に魅力を見つけ、「売れる曲」「売れないけどいい曲」を聞き分けながらレコードにひたすら耳を傾けていました。

そうして書きためた曲が何百曲、練習はそっちのけで曲を作り、シンセサイザーやパソコンを手に入れるうちにいつの間にかあまりギターを弾かなくなり(ギターのフレーズすらコンピュータの打ち込みで入力していました)、いつの間にか40代になっていました。今でも自分で作った曲は、楽譜を見ながらようやくギターで弾ける始末です。「曲を作るだけで練習はしなかったんだよ」が体の良い言い訳になっていました。

そんなおり、多くの方と同じように、新聞で石川鷹彦さんの趣味悠々を発見しTVで見ながら「この人は見た目はただのおじさんだけど、すごい人なんだよ」と家族に話をしながら、小学生の頃の思い出に思いを馳せていました(今でも我が家では、石川大先生は「おじさん」と呼ばれています)。そうこうしているうちに、昔の楽譜を引っ張り出し、新たに楽譜やCDを購入、また何本かギターも購入し「20回払い、利息0%」という広告に魅かれ、最終的に新品のMartin D-18GEを購入しました(その後自宅以外でも弾けるように、OOO28-ECも購入してしまいましたが)。

Martinを所有した喜びは何事にも代え難く、音が聞きたいがために毎日ケースから出してはチューニングをし直し、テクニック的には初心者同様であるものの、たまに調子の良い日は「自分にも神が宿った。誰かに聞かせたい!」とどこかで弾いてみたい思いは募る一方。

そんな中で、インターネットで見つけた「オヤ応」に参加させていただき、静岡東SPの温泉おやじさんの計らいもあり何回か練習会や慰問会を経験しました。最初の練習会は上手な方々が多くすっかり萎縮してしまい、鳴るはずのギターなのに音が出ない…その後慰問会を前にして「丁寧にピッキングをして出来る限り大きな音が出せるように」と練習をして最初の慰問会を経験しました。その結果、利用者さんに喜んでもらえ、再度快感を味わうことができました。小学生の頃の、雅美ちゃんの熱い視線を思い出しました。2‐3人のアンサンブルの中で、自分がアルペジオを弾いている→他の人はストロークを弾いている。二人ともアルペジオを弾いている→コードフォーメーションの中で相手と違ったこんな音も入れてみよう。言葉に出さなくとも、お互いの持ち味を生かして、音を聞きながら、お互いの手の動きを見ながらのほんの片隅の心遣いがとてもいい結果を生み出すことに感激しました。

毎日の仕事の上でいろいろな人に気を使うことも多く、時には疲弊してしまうのですが、こうしたいい音楽を奏でるための心遣いって、とても素敵だと思います。自分如きのギターで喜んでくれる人たちがたくさんいるのなら、練習の励みにもなります。こうやってまた人前で演奏する機会を与えてくれたオヤ応の皆様に、最上級の感謝をいたします。





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