2004年7月27日
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「原(弦)風景」
 
(Betty/不詳(または、見た目で勝負)/東京)
 


子供の頃
夏休みになると決まって出かける田舎の家があった。
庭に浅い井戸、というより湧き水の溜まりがあり
いつも必ず西瓜が冷やしてあった。
周辺の野山を駆け回りのどがカラカラになると
その溜まりに口をつけ、冷たい水で渇きを潤した。
そこにはなぜか金魚が泳いでいて
口の周りにお菓子のくずなどついていると突っつかれたりした。
ちょっとおブスな、それでいて愛嬌のある黒い出目金と
縁日でよく見かける一般的な赤いの、それぞれ一匹ずつ。
今思うと水槽の水を飲んでいるようで
なんだかな〜っと思ったりもするが
当時はただただ楽しく、くすぐったく、笑い転げていた。
おやつにやさしく冷えた西瓜をほおばり
お約束の種とばしを競い合い
木々をわたる風と、蝉時雨の中で昼寝をした、、、。

うだるような夏の真ん中で
あの頃を思う私の腕の中にはMartinがある。
6本のスティールとなめらかなボディ、美しいフォルムが
あの頃と同じように”癒し”を与えてくれる。
風の音、蝉の声に代わるやさしい音色を奏でられるように
心穏やかにMartinと向き合う日々。

あの家も、庭も、金魚も、今はもうない。


                          
 
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