「懲りないおっさんのバラード」
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(おでき/1951年生/京都) |
「よっしゃ!」歌い終わったと同時に、心のなかでグーを高々と上げていたものです。確かな手ごたえの感触と、十分過ぎる自己満足に鼻の穴を広げて、うっとりする客の視線を背中に感じながら意気揚々とマイクの前から離れるのです。
充足感以外の何物でもない歓喜のビールをグビグビとやり、余裕のゲップなんかもかましながらおもむろにタバコを取り出し、鷹揚に周りを見て煙なんかを吐き出してみたりもしてみせるのです。まさに至福の笑みが自然とグヒグヒャヒャと浮かんできたりする瞬間でもあります。
それなのに!よせばいいのに録音なんてものをしてしまっていたものですから、もう一度あの興奮と感動を味わってみようか、なんて厚かましくもおぞましいことを考えてしまい、ニタニタと気持ちの悪いよだれを垂らさんばかりにヘッドホンを耳に突っ込んだが最後、天国から地獄の煮えたぎる窯の中にズドーン!耳にあるヘッドホンにわが耳を疑った驚愕は計りしれません。
あかん!もう、いやや。二度とライブなんか出ぇへんぞ!
不安定な音程、無理やり過ぎる声の出し方、それでいてどこか自信だけは人の百億倍はありそうな図々しい歌い方、おまけにギターのチューニングはバラバラ、こういうのを「喜色満面→自画自賛→厚顔無恥→急転直下→茫然自失→自信喪失→自暴自棄」と言うんやろうね。
それでも、またお声がかかると、いそいそとギターを抱えて行ってしまうのです。そして、毛の生えた心のなかで大きなグーを高々と。臥薪嘗胆→起死回生…(しつこい?)。
ほんまにコマッタもんです。
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